人形劇三国志


フィギュア/海洋堂三国志フィギュアコレクション(諸葛亮孔明)

00/12/30 04/2/27改訂 04/10/20画像入れ替え

最初にアップした時の文章があまりにも酷く、常々直したいと思っていたのだが、今回機会を得て改稿した。
アットニフティのHP容量が20MBに増えた記念アップ

三国志の人形の写真については製作者川本喜八郎氏に版権があるため使えませんので、画像を入れ替えました。04/10/20

人形劇三国志の人形についてはこちら川本喜八郎氏のオフィシャルページより)

人形劇三国志について、いつか思いきり書きたいと思っていた。
この度この人形劇のフィギュアが発売されるそうなので、これを期に書き記しておくことにしよう。

私は元来「人形劇三国志」は、本放送時(1982年)には、まったく興味がなく、見たこともなかった。

一度チャンネルを廻したら、難し過ぎる人名、口の動かない人形、途中から見たらまったく分からないストーリー…等々、とても興味を持てない内容だったのと、違和感を覚えたのとで、それ以上見ようという気にはならなかったのだ。

それからよほど経ったある時「三国志」は再放送され、それを見るともなしに見ていたら、孔明の兄というキャラが出ていて*

今思うと、そのキャラは諸葛謹(代字)、孔明の兄で呉の孫権の家臣であった。

へえ、孔明に兄がいたのか…と、そんな所から初めて興味を持ったのだった。

それまでは、三国志の三国が、魏・呉・蜀という国名であるということをおぼろげに記憶にある程度。
それも新羅とか百済とか、そんな国と混同していたかもしれない。
まして諸葛孔明という名こそ知っていたものの、この三国志の登場人物であることは知らなかった(実在の人物であるが)。それほどの、ものすごい無知な人間だったのだ。

それでも孔明が蜀の国の人であるということや、「魏」の国が「三国志演義」の世界においては悪役であるとか、そのようなことを「人形劇三国志」を何度か見て理解するようになるに連れ、難解だと思っていた三国志の世界がいつか面白く感じるようになって来たのだった。

その頃には口の動かない人形の動きが気にならなくなっていたし、またこの番組は、人形劇だというのにカメラワークや装置がとても凝っていて、とても子供向けの番組だとは思えないくらい本格的だったし、人間のドラマとなんら変わらない演出がされていて、大人の鑑賞にも耐える、大人が夢中になってしまうだけの魅力に溢れた作品として成立していたのだった。

 

そしてまた、人形の声をあてる声優さんたちの素晴らしさが、何よりもこの人形劇のもう一つの魅力だった。

「人形劇三国志」の声優の特徴は、一人で何役もこなすこと。だから声優は全部で殆ど10人以内だったと思う。
そして本来の、いわゆる声優さんではなく、俳優があてていたことがもう一つの特徴だ。
劉備の谷隼人、関羽の石橋蓮司、張飛のせんだみつお、そして孔明の森本レオ。
彼らの素晴らしい声の演技が、この人形劇に厚みと、格調高さとを与えていたのだった。

せんだみつおの張飛はすばらしかった。
無鉄砲さと愛嬌と、人間的な弱さ…。その熱演は忘れられない。
私はせんだみつおはこの張飛があるから、世間の悪評にも関わらず、彼を素晴らしい役者だと信じて疑わないのだ。
役者としてもっと評価すべき人物だろう。

曹操は岡本信人が演じた。
普段は甲高い声で、わりと3枚目的な役を演じている俳優だ。
しかし彼の曹操は、お腹の底から響くような低い声で、男の色気さえ感じさせるような絶品の曹操だった。
一体、岡本信人のどこにあのような男っぽさと艶やかさが秘められていたのだろう。今もって謎だ。

そして何と言っても極め付けが、森本レオの孔明だった。

優しく、静かで切なげな、囁くような声で「殿、それならば、よいのですが」
などと言うせりふに腰が砕けそうになったのは私だけではあるまい。
この森本孔明のおかげで「人形劇三国志」に転んだ人が、大勢いたに違いない。
私もその一人だ!

物語の大詰めで、孔明が亡き君主・劉備玄徳の遺志を継いで玉砕覚悟の戦いに赴く時に、実際の孔明がしたためた「出師の表」を表わす場面がある。
古今の名文とされている、戦いの、決意表明のようなものだ。

森本レオ孔明がそれを朗読するのは、感動的だった。
その名文をレオ様の朗読で聞くという、至福。

 

さて、そして何と言っても「人形劇三国志」、その最大の魅力こそ、人形作家・川本喜八郎氏の手による、人形たちの造形だった。

「三国志」はいろんな人によって小説として書かれ、漫画として書かれ、ゲームにさえなり、いろいろな方面から再生され続けて来た。
その中で、三国志の読者は各個人それぞれに登場人物のイメージがあるだろう。

私の場合は何の免疫もなく、まず最初に川本氏の人形劇だったため、それが脳髄に擦り込まれたせいか、この人形劇の人形以外のキャラクターのイメージは、もう受けつけなくなっているのだ。

気品と色気があり、性を超越したような孔明、どんぐりまなこが愛嬌のある張飛、丸顔に貫禄と凄みがある曹操…。
どれもこの顔でないと納得出来ない、と言いたくなるくらいの見事に特徴的で、芸術的でさえある造形。

横山光輝が長編漫画に書いていて評判を取ったが、私はあの、詐欺師か、いんちき宗教の教祖のような孔明では到底納得出来ない。
孔明様は、あくまでたおやかで、はかなげで、中性的な色気があり、切なげに「との〜」と劉備に擦り寄っていなければならない。
「人形劇三国志」を見たらもう、孔明に対してはそのようなイメージしか持てなくなるのだ。

それほど、川本氏の人形のインパクトは強かったといえるだろう。

三国時代よりわざと少し時代をずらしたという衣裳も素晴らしかった。
錦絵のような極彩色、それを人物の性格によって色を使い分け、日中混合の見事な工芸品的な衣裳に作り上げた。

川本氏は曹操が好きだったからか、特に曹操の人形は凝りに凝っていて、年を取ると髪に白髪が交じり、赤壁では一瞬鬼の形相になったりした。
こんなにしてもらえたのは曹操以外にはない。

 

私が見た教育テレビでの再放送時には再び三国志ブームが起き、この川本氏の人形展覧会が全国的に行なわれることになり、私もその時、大阪での展覧会を見に行った事がある。

その時既に人形が製作されてから数年経っていたため、人形はほどよく古び、実際に使われていたものでもあるので、かなり退色なども認められた。
しかしそれがかえって工芸品的な価値を高めているような気もした。

テレビ放送のために作られ、使われた消耗品の人形であるはずなのに、江戸時代に作られた御所人形やら、雛人形やらと何ら変わらない品格と威容があり、このような素晴らしい工芸品をテレビで毎回動かしていたんだなあと感慨はひとしおだった。

テレビでは人形の顔はアップで写るため錯覚してしまうが、実物はとても小さい顔なのにも驚いた。

実物の人形は、衣裳の丈も入れれば40pくらいはあったかもしれない。大型の人形である。
でも、承知の通り、三国志人形は顔が小さく、肩幅が広いという造形だ。
実物の顔は本当に小さな顔なのだった。

その小さな顔を覗き込んで、しかし、この小ささでテレビでアップになっても耐えるほどの精妙な作りであったことが、また驚きなのだった。

 

人形劇三国志は、もとの三国志の魅力もさることながら、人形と、俳優の熱演、演出などがあいまって、幾百ある、どの膨大な三国志よりも群を抜いて輝く存在になったのに違いない。


註)

「人形劇三国志」はストーリー展開としてはかなりでたらめで、脚本家による相当自由な(いい加減な?)脚色が行なわれている。

もともと三国志は、陳寿という人になる「三国志」(有名な「魏志倭人伝」を含む魏の国が編纂した歴史書)がまずあり、それから民間に伝わる三国志伝説を羅貫中という人が編纂した「三国志演義」がある。

「三国志演義」は、後世、実在の人物たちやエピソードを物語的に面白く語り継いだもの、この「演義」が、今日いわゆる「三国志」と言われて親しまれているものの基本で、「人形劇三国志」も、もちろんこの「演義」がもとになっている。

日本では吉川英治が「演義」を小説として自由に描いて人気を博し、三国志を日本でポピュラーなものにした。

日本の「三国志」の伝統は、この吉川英治の遺産を受け継いでいるのだろう。
数多くの日本の作家が「三国志」に挑戦している。
中にはあのシモダカゲキ(変換するのが面倒なのでカタカナのままだ!)までが「三国志」を書いている。作家にとっては、魅力的なテーマなのだろう。

私はそういう作家の「三国志」は読んでいないけれども、いずれにしても、作家の自由な発想で史実をとらえているのだと思う。
それは、「三国志」が「三国志演義」になった時に既に始まっている史実の操作であって、作家がでたらめを書きまくっていたとしても、事実とは違う、と目くじらをたてたりしないのが、「三国志」を楽しむ時の作法なのだろう。

したがって、「人形劇三国志」でも、「演義」に照らし合わせてさえも、どうかというような、かなりでたらめな展開になっていたりするのだが、まあそれは大目に見ないといけないのだ。

第一、狂言廻しの紳助・竜介(彼らが案内役だった)の人形が、物語の一番始めから出演していて、最後まで(さして年も取らず)生きているということからして不自然なのだから。


追記 04/2/27

「人形劇三国志」で、周瑜を演じているのは、曹操と同じく岡本信人である。
周瑜の時の声は甲高く、本来の岡本信人という感じ。
そして、その岡本信人は魏延も演じている。こちらの方は曹操に近い低音で演じていた。
つまりその、何というか、「天華」での孔明のお相手を同じ人が演じていたということで…。
しかも、劇中では、周瑜が舞う剣戟の歌を岡本信人自身が歌っている場面があるのだが(大丈夫に処して…という歌詞)、この歌は、後に同じく魏延が剣舞しながら歌うという、偶然の一致があった。
ちょっと面白いエピソードなので…。
(実は董卓も…岡本信人なのだ。呂布は森本レオその人だが)

ちなみに、人形劇での魏延は、謀反は起さない。そのおかげで孔明の死の前後をすっきりと、また感動的に描けていてよかったと思うのだが。

関羽の声は石橋蓮司、劉備は谷隼人。私の好きな魯粛は三谷昇、趙雲は松橋登だった(美しい声)。孔明の兄、諸葛謹子瑜は石橋蓮司。


参考 人形劇三国志大百科 (三国志サロン清流派発行) 93年


   表紙 劉備、張飛、関羽   裏表紙 曹操、諸葛亮

この本は、同人による「人形劇三国志」のファン本ですが、総320ページ、全68回総詳細解説・登場キャラクター徹底研究・衣裳解説・インタビュー・主要名場面再録等、「人形劇三国志」に関することはほぼ、網羅されているという、至れり尽せりのすごい本です。カラーは表紙のみ。
人形そっくりのイラストや、人形がどの場面で平服を着ていたか、冠をつけていなかったかなどと書いてあるのが楽しい。人形劇ファンは必携本です。

人形劇三国志グッズ

人形劇三国志の人形 人形劇三国志について(川本氏オフィシャルページより)

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