角川文庫
王の男 キム・テウン原作 角川文庫 2006 2007/6/10 |
ご存知、韓国映画「王の男」のノベライズ本です。
日本で公開された121分版を、脚本からストーリーに起していて、映画では分かりにくかった主人公たちの心理を克明に描いている。
その分、映画にあった想像力を喚起するニュアンスは失われているものの、分かりやすくストーリーが追えるのでお勧め。
スタンダード版なので、ロングバージョンにあった、チャンセンとコンギルが戯れる場面などはまったくなく、編・訳者はロング版の存在を知らなかったと思える。
韓国の歴史に疎い我々に、韓国の風俗や身分制度など、いちおうの知識をざっと教えてくれるのもありがたい。
この物語は事実とフィクションがない交ぜで、実在の王、ヨンサングンの悪行から物語を膨らませているところに巧みさがある。
ヨンサングンは悪王として有名だというが、我が国の信長や秀吉の悪行に比べたらまだましだという気がしないでもない。
これが同性愛かどうかは意見が分れるところだと思うけれども、美しい女形に心惹かれる王様、王様に嫉妬する相方の芸人、というシチュエーションはじゅうぶんに妄想を膨らませる余地があり、それぞれの人物造形も確かだ。
女形コンギルに嫉妬心むき出しの王の愛人ノクスの存在も、よりいっそうコンギルを引き立てている。
とにもかくにも、この物語は男と女の中間のような、無邪気さと妖艶さを併せ持ったようなコンギルの中性的なキャラクターの創造がキーポイントで、それが成功の要因であり、われわれやおいの心にヒットする要因でもある。
小説版なら、芸人たちの示唆に富んだセリフがじっくりと読めるのでその点でもお勧め。
カラー写真もついており、親切。