角川文庫
色闇 2005年 山藍紫姫子 角川書店 05/7/16 |
角川書店というメジャーな出版社が、角川文庫というメジャーな文庫でこのような、いわゆるやおいな小説を出すのが珍しくて、思わず手に取り、思わず買ってしまった。
やおいというより、ボーイズラブというより、耽美という方が正しいのかもしれない。
同性愛を扱った小説にはいろいろな呼び名が付されていて、それぞれにニュアンスが違っていて微妙なのだが、これなどはまさしくどこから読んでも耽美、と言うに相応しい。
やおいが同人的で、JUNEは不幸で残酷な感じ、ボーイズラブとなるとライトで友達感覚…というような感じに私の中では分けられているのだが。
山藍紫姫子という人は、かなりベテランの耽美作家だと思う。私は一度も読んだことがない…はずだが、よくその周辺で名前を聞くので、ペンネームからして耽美だ、と思っていたのだ。
とにかく角川文庫にこういうのがラインナップされたということが画期的だ。
お話は江戸時代。火盗改方…とかいう、同心(?)の捕物のような形で話が進む。
最後はともあれハッピーエンドで、ラブラブ(?)で終るのがいい。
私はこういう話では、残酷で救いがなかったり、後味が悪かったり、痛かったり、というのがまるで駄目で、痛いのがいやで、しばらく読まずに放置していたくらいなので、とりあえずほっと胸を撫で下ろした。
残酷や残虐場面はないので助かった(エッチな拷問場面はあり)。発端から話がよく練れていて、展開に無理がなく、捕物としても面白く読める(…はず)。
ただ主人公の男娼の年齢が数え年16歳はいいとしても、12歳で盗賊の首領だった、というのにはいかにも無理があるように思う。
お相手の隠居した同心の、殺された妻の事件と主人公の盗賊との関連はあるのかないのか、その辺が曖昧なのも気になる。多分無関係とは思うが、それならそうとはっきり書いておいた方がいいのではないか。
強盗の手口がよく似ているので、読み手は混乱してしまう。というような文句を言ってみたが、それを除けばかなりの出来だろう。
江戸時代の陰間が主人公ということで、実際にそのような存在はいたのだし、設定に無理がない。
帯には「俺に飼われてみぬか」という気恥ずかしいキャッチが書かれているが、読み始めると、それほど気恥ずかしい感じはないのだ。
飼われるというのは、密偵になるということで、字づらどおりそのままなのだった。
あともう1つ、主人公の濡れ場で、本命さんと、そうでない相手との濡れ場が同じような調子で展開していて、区別がつかないのがもうちょっとかなとも思った(私の読みが浅いからかも…)。
本命さん相手のエッチと、そうでない相手のそれとでは、やっぱり違う、というような、まあそういう情感があって欲しいなと。まあたまには、正統派お耽美でしっぽりというのもいいかと。
表紙の絵は小林智美で、美麗です。